無痛分娩 Q&A

Q14. 硬膜外鎮痛の副作用が心配です。

麻酔を担当する医師は、不具合が生じないように細心の注意をはらって麻酔を行います。 しかし痛み止めの効果が得られるとともによく起こる副作用(①~⑤)や、まれに起こる不具合(⑥~⑩)があります。 また硬膜外鎮痛を受けていなくてもお産のあとに起こりうる不具合(⑪~⑫)もあります。

よく起こる副作用

① 足の感覚が鈍くなる、足の力が入りにくくなる:

お産の痛みを伝える経路である背中の神経の近くには、足の運動や感覚をつかさどる神経が含まれています。 したがって、麻酔薬によってお産の痛みを伝える背中の神経を鈍らせると、痛みが取れるとともに足の感覚が鈍くなったり、足の力が入りにくくなることがあります。 その程度は無痛分娩のやり方やお母さん個人個人によって様々です。

② 低血圧:

背中の神経には、血管の緊張の度合いを調節しながら血圧を調節する神経も含まれています。 よって背中の神経が麻酔されることによって、血管の緊張がとれ血圧が下がることがあります。 その程度は一般的には問題とならない程度です。まれに通常より程度が大きい場合があり、お母さんの気分が悪くなり、赤ちゃんも少し苦しくなってしまうことがあります。 したがって、硬膜外鎮痛を行うときには、血圧は注意深く監視され、下がった場合には速やかに治療されます。

③ 尿をしたい感じが弱い、尿が出しにくい:

背中の神経には、尿をしたい感覚を伝えたり、尿を出すための神経も含まれており、鎮痛の効果が現れるとともに、膀胱に尿がたまってもそれを感じなくなったり、尿を出そうと思っても上手く出せなくなったりすることがあります。 その際は、細い管を入れて尿を出します。管を入れる処置は麻酔が効いているために痛くありません。

④ かゆみ:

硬膜外鎮痛(または脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛)に医療用麻薬を組み合わせて使うと、その影響でかゆみが生じることがあります。 がまんできないときには薬を使って治療しますが、ほとんどの場合、治療を必要としない程度のかゆみです。

⑤ 体温が上がる:

硬膜外鎮痛を受けている妊婦さんの一部では、硬膜外鎮痛を受けていない妊婦さんよりも体温が高くなると報告されており、 特に初めてのお産のときにその傾向が強いといわれています(※1, ※2, ※3)。 熱がでるのは風邪をひいたときなどのようにばい菌の影響と思われがちですが、硬膜外無痛分娩中の発熱は、ばい菌が原因ではないと考えられています(※4)。 原因としては、子宮収縮にともなって代謝が亢進することや汗をかきにくくなること、痛みが取れているため呼吸が速くならず熱が体の外に放出されないことや、 硬膜外無痛分娩を受けている妊婦さんでは何らかの炎症が起こっていることが考えられています(※2, ※3)。 硬膜外無痛分娩中にお母さんの体温が上昇した場合に、生まれた赤ちゃんに影響があるかどうかについては、さまざまな報告がありますが、明らかになっておらず、現在も研究が進められています。 また、ばい菌が発熱の原因になっていないかを調べるためにお母さんと出産後の赤ちゃんに採血検査をすることがあります。

まれに起こる不具合

⑥ 硬膜穿刺後頭痛:

まれ(約100人に1人程度)(※5)ではありますが、硬膜外腔に細い管を入れるときに硬膜を傷つけ(硬膜穿刺)、頭痛が起こる場合があります。 この頭痛は、硬膜(図 3, 図 4)に穴が開き、 その穴から脳脊髄液という脊髄の周囲を満たしている液体が硬膜外腔に漏れることにより生じるとも言われており、頭や首が痛んだり吐き気がでたりします。 産後2日までに生じ、症状は特に上体を起こすと強くなり横になると軽快します。まず安静にすることや痛み止めの薬をのむことで治療をします。 それによって頭痛や吐き気が軽くならない場合や、物が二重に見えるなどの特別な症状が見られた場合には、患者さん自身の血液を硬膜外腔に注入し、 血をかさぶたのように固まらせることにより穴をふさぐ「硬膜外血液パッチ」という処置を行うことがあります。

⑦ 血液中の麻酔薬の濃度がとても高くなってしまうこと(局所麻酔薬中毒):

硬膜外腔にはたくさんの血管があり、妊娠中にはそれらの血管が膨らんでいます。 そのため、硬膜外腔へ入れる管が血管の中に入ってしまうことがあります。 硬膜外腔に入れるはずの麻酔薬が血管の中に注入された場合や、血管内に注入されなくてもお母さんに投与される局所麻酔薬の量が多すぎる場合は、耳鳴りが出たり、舌がしびれたり、血液中の麻酔薬の濃度が高すぎることを示す症状が表われます。更に血液中の麻酔薬の濃度が高くなると、けいれん(ひきつけ)を起こしたり、心臓が止まるような不整脈が出ることがあります。麻酔を担当する医師は、この合併症がおきないよう十分に注意していますが、発生した場合には、治療薬の投与や人工呼吸といった適切な処置を行います。

⑧ お尻や太ももの電気が走るような感覚:

硬膜外腔に細い管を入れるときに、お尻や太ももに電気が走るような嫌な感じがすることがあります。 これは、管が脊髄の近くの神経に触れるために起こります 。一般的にはこの感覚はほんの一時的なもので、特別な処置を必要とせず軽快します。 場合によっては管の位置の調整が必要なこともあります。

⑨ 脊髄くも膜下腔に麻酔の薬が入ってしまうこと(高位脊髄くも膜下麻酔・全脊髄くも膜下麻酔):

硬膜外腔へ管を入れるときや分娩の経過中に、硬膜外腔の管が脊髄くも膜下腔(図 3, 図 4)に入ってしまうことが、まれにあります。 硬膜外腔に入れるはずの麻酔薬を脊髄くも膜下腔に投与すると、麻酔の効果が強く急速に現れたり、血圧が急激に下がったりします。重症では呼吸ができなくなったり、意識を失ったりすることもあります。麻酔を担当する医師は、この合併症がおきないよう十分に注意していますが、発生した場合には、人工呼吸をはじめとする適切な処置を行います。

⑩ 硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に血のかたまり、膿(うみ)のたまりができること:

数万人に一人と非常に稀ですが、麻酔の薬が投与されるべき硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に、血液のかたまりや膿がたまって神経を圧迫することがあります。 永久的な神経の障害が残ることがあるため、できる限り早期に手術をして血液のかたまりや膿を取り除かなければならない場合があります。 正常な人にも起こることがありますが、血液が固まりにくい体質の方や、注射をする部位や全身にばい菌がある方は、血のかたまりや膿ができやすいので、 硬膜外鎮痛を行うことができません(Q18「硬膜外鎮痛をしてはいけない場合はあるのでしょうか?」を参照してください)。

硬膜外鎮痛を受けなくても、お産のあとに起こる可能性があること

⑪ 産後の神経の障害:

6,057人のお産について、産後の神経の障害を調べた研究があります(※6)。 この研究では、硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛をしたこととお母さんの神経の障害とのあいだに関連を認めませんでした。 お産のあとの神経の障害は、赤ちゃんの頭とお母さんの骨盤の間で神経が圧迫されることや、お産のときの体位が原因で起こることが圧倒的に多いといわれています。

⑫ 腰痛:

妊娠中から産後に腰が痛くなることがよくあります。 しかしこれらの多くは、妊娠にともなって背中の靭帯が軟らかくなり、妊娠して大きくなった子宮の重みがかかることで、背骨にかかる負担が大きくなるために起こります。 腰痛は、硬膜外鎮痛を受けた人も受けなかった人も同じくらいよく起こると報告されています(※7)。

  • ※1. Eltzschig et al. N Eng J Med. Jan 23;384:319-332, 2003
  • ※2. Sharma et al. Anesth Analg. 118:604-610, 2014
  • ※3. Segal. Anesth Analg. 111:1467-1475, 2010
  • ※4. Goetzl. Curr Opin Anesthesiol. 25:292-299, 2012
  • ※5. Choi et al. Can J Anesth. 50:460-469, 2003
  • ※6. Wong et al. Obstet Gynecol. 101:279-288, 2003
  • ※7. Amin-Somuah et al. Cochrane Database Syst Review. CD000331, 2005