お知らせ

「遺伝性血栓性素因患者の妊娠分娩管理に関する診療の手引きQ&A」が公開されました。JSOAPも作成に貢献しています。

公開日: 2021年06月09日
2021年5月18日、日本血栓止血学会HPに「遺伝性血栓性素因患者の妊娠分娩管理に関する診療の手引きQ&A」が公開されました。

<一般社団法人 日本血栓止血学会>遺伝性血栓性素因患者の妊娠分娩管理に関する診療の手引きQ&A


JSOAPからのパブリックコメントが採用されました

昨年10月に公開された「遺伝性血栓性素因患者の妊娠分娩管理に関する診療の手引きQ&A(案)」では、遺伝性血栓性素因患者の周産期の抗血栓療法について詳しく述べられた一方、抗血栓療法と麻酔に関連した事項に関する内容はありませんでした。
そこで、JSOAPよりパブリックコメントを提出し、麻酔に関する事項および麻酔科医との連携について、記載していただく運びとなりました(※)。
産婦人科医、血液内科医、新生児科医そして麻酔科医が力を合わせてQ&Aが完成したのは大変有意義なことです。周産期の安全性を高めるため、JSOAPは今後とも関係学会と協力を深め、より一層、積極的な活動を行ってまいります。

JSOAP安全委員会

 ※「遺伝性血栓性素因患者の妊娠分娩管理に関する診療の手引きQ&A」 の麻酔に関する事項
 ***********************************************************************
CQ8-1 妊娠中に治療量の未分画ヘパリン(以下ヘパリン)を用いた抗凝固療法を実施している場合は?(p.39)
 
分娩時に帝王切開になる場合や、昨今の無痛分娩の増加に伴い、分娩時に麻酔を必要とする妊産婦が少なくない。血液凝固障害のある患者に脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔を行うと、硬膜外血腫のリスクが増加するため、慎重な対応が必要となる。硬膜外血腫は非可逆的な神経障害をもたらしうるためである。一方で抗凝固療法を受けた患者であっても、抗凝固療法の一時的な中止によって脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔を行える場合が多く、区域麻酔よりリスクの高いことが知られる全身麻酔を避けることも可能である。そのため、抗凝固療法を行うことの多い血栓性素因患者の妊娠分娩管理について、以下のごとく麻酔について予め検討しておくことを推奨する。

 1. 抗凝固療法中の産婦における帝王切開や無痛分娩などの麻酔は慎重な検討を要するため、麻酔科医と事前の相談を行う。
 2. 適切な抗凝固療法中止期間をもうけることができる症例では、脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔を行うことを検討する。
 3. 帝王切開術後などに硬膜外鎮痛を行いながら、抗凝固療法を開始する場合は、硬膜外カテーテル抜去と抗凝固療薬投与のタイミングについて関係科で協議する。
 
CQ8-2 妊娠中に予防量のヘパリンを用いた抗凝固療法を実施している場合は?(p.40)
 
妊娠中、予防量のヘパリン持続点滴静注が行われている場合はそのまま分娩前まで継続とするが、予防量のヘパリン皮下注射が行われている症例についても、個々に患者へのリスク・ベネフィットを考慮しながら、原則として妊娠36週以降に皮下注射から持続点滴静注に切り替える。その理由は、皮下注射投与3時間後にヘパリンの最大血中濃度に達した時に胎児機能不全などのイベントが発症した際、緊急帝王切開施行時の脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔の対応に苦慮するからである。また、分娩時に硬膜外麻酔を強く必要とする症例や、帝王切開による全身麻酔がハイリスクである場合、これを避けるために計画分娩とすることが望ましいとする報告もある。さらに、予防量のヘパリン皮下注射でも、緊急時のneuraxial anesthesia(脊髄幹麻酔)はヘパリン投与後4~6時間以上の待機、もしくは凝固機能の評価後に行うことを提案している報告がある。したがって、母児共にリスクの少ない症例での経腟分娩の場合は陣痛発来時に、計画分娩や帝王切開の場合は開始の6時間前にはヘパリンの点滴を中止する。なお、予防量のヘパリンの場合は、妊娠36週以降に皮下注射から持続点滴静注に切り替えずに、陣痛発来時に、皮下注射投与を中断することも許容される。

***********************************************************************