無痛分娩 Q&A
Q17. 硬膜外鎮痛は授乳に影響を与えますか?
お母さんの硬膜外腔に投与する局所麻酔薬が高い濃度で用いられていたり、硬膜外鎮痛だけでなく筋肉注射や点滴からの痛み止めの薬が同時に用いられていると、 出産した後の授乳がうまくいかず人工ミルクを加えることが多くなると報告されています(※1, ※2)。 しかし、これは現在主流となっている、低濃度の局所麻酔薬に少量の医療用麻薬を加えて硬膜外投与する無痛分娩法とは違います。 したがってこれらの研究は硬膜外鎮痛が授乳に与える影響を正しく評価していないといえます。
母乳育児がうまくいくかどうかには、さまざまな理由がかかわっており、お母さんへの母乳育児の専門家によるサポートはその一つです。 母乳育児に積極的なカナダの病院から出された研究結果によると(※3)、現在広く用いられている、低濃度の局所麻酔薬に少量の医療用麻薬を加えて硬膜外投与する方法は、出産から6週間後の授乳の成功率に影響しませんでした。
硬膜外鎮痛のために、お母さんに投与した麻酔薬がどのくらい母乳に移行するかを調べた研究は多くはありませんが、 お母さんの静脈から投与した少量の医療用麻薬がどのくらい母乳に移行するかを調べた研究はあります(※4)。 この研究では母乳中に医療用麻薬は検出されましたが、その量は極めて少ないものでした。また、赤ちゃんが生後すぐに飲む母乳の量は少なく、赤ちゃんの腸から体内に吸収されるのは母乳中の医療用麻薬の一部です。 硬膜外腔に投与される麻酔薬は、静脈から投与される場合に比べて母乳中に移行しにくいことを考え合わせると、硬膜外無痛分娩で使われた薬が母乳を介して赤ちゃんに悪い影響を与えることは、ほとんどないと考えられます。
母乳育児をうまくいかせるためには、出産後できるだけ早く母乳を赤ちゃんに直接与えることが推奨されています(※5)。 生後24-48時間以内にお母さんから直接母乳を吸っていただけの赤ちゃんで、生後6ヶ月の母乳育児の割合が多かったことが報告されており、 この研究では、硬膜外鎮痛は母乳育児に影響を与えていませんでした(※6)。
- ※1. Volmanen et al. Int J Obstet Anesth. 13:25-29,2004
- ※2. Torvaldsen et al. Int Breastfeed J. 1:24,2006
- ※3. Halpern et al. Birth. 26:83-88,1999
- ※4. Steer et al. Can J Anaesth. 39:231-235,1992
- ※5. http://www.who.int/topics/breastfeeding/en/
- ※6. Forster et al. BMJ Open. 5:e007512,2015