無痛分娩とは?、医療機関で行われる薬を用いた無痛分娩に関する正確な情報を、医療従事者でない方々に知っていただくためにまとめました。

日本産科麻酔学会(JSOAP)

無痛分娩Q&A

はじめに

お産には様々な形態があります。どんなお産を選ぶべきかを決めるのは産婦さんやその周囲の方々にとって簡単ではないでしょう。 その決断をするうえで大切な判断材料となるのが正確な情報です。
このQ&Aは、医療機関で行われる薬を用いた無痛分娩に関する正確な情報を、医療従事者でない方々に知っていただくためにまとめました。産科麻酔にかかわる私ども医療従事者が、妊婦さんやそのご家族とお話する中でしばしば受ける質問を取り上げ、その答えを記しました。
現在多くの国で無痛分娩といえば、その第一選択は「硬膜外鎮痛法」といわれる下半身の痛みだけをとる方法です。 本Q&Aは、この「硬膜外鎮痛法」を中心とした内容です。妊婦さんとその周囲の方々が満足できる出産を迎える助けになれば幸いです。

※ 本Q&Aの内容の著作権は日本産科麻酔学会が有しておりますので、無断での転用は固くお断りさせていただいております。

分娩は3つの段階に分けられます。陣痛が始まってから子宮の出口が完全に開くまでを第T期、その後赤ちゃんが生まれるまでを第U期、胎盤が出てくるまでを第V期といいます。 分娩第T期には、子宮が収縮することや子宮の出口が引き伸ばされることにより下腹部に痛みが生じます。図1をご覧ください。 子宮の収縮や子宮出口が引き伸ばされることによる刺激は、子宮周辺にある神経を介して背骨の中の神経(脊髄)にまとまって伝わります。 この刺激はさらに脊髄を上って脳に伝わり、そこで痛みとして感じられます。 分娩第U期には、腟と外陰部が伸展し、その刺激が腟や外陰部にある神経から脊髄、脳へと伝わって下腹部から外陰部の痛みも感じるようになります。 赤ちゃんがお母さんの体から出てくることによって会陰(外陰部と肛門の間の部分)が急に大きく裂けてしまうことを防ぐために、あらかじめ小さく切開して赤ちゃんが出やすくすることもありますが、硬膜外鎮痛はこの切開の痛みも和らげます。

これらさまざまな部位の痛みは分娩第T期から第U期で突然変化するものではなく、強さを増しながら徐々に変化していきます。 分娩第V期は20分ほどで、通常はあまり痛みを感じません。具体的にどこがどのくらい痛むかについては、次のQ2をお読みください。

図2をご覧ください。陣痛が始まってから子宮の出口が完全に開くまでの分娩第T期には、お腹の下のほうから腰にかけて痛みを感じます。 陣痛の始まったばかりの頃の痛みは比較的軽く、「生理痛のような痛み」または「お腹をくだしているときのような痛み」と感じる妊婦さんが多いようです。 それが、お産が進み子宮の出口が半分くらい開いてくる頃に痛みは急に強くなり、また痛みを感じる範囲も広がってきます。 そして分娩第T期の終わる頃には、おへその下から腰全体、そして外陰部にかけてとても強く痛むようになります。 このときの痛みを「腰がくだかれそう」という産婦さんもいます。

子宮の出口が完全に開いて分娩第U期に入る頃には、痛みは外陰部から肛門の周りで特に強くなってきます。 赤ちゃんの体の一部が子宮から出て、下のほうに降りてくるためです。 赤ちゃんが産まれる間際には、外陰部から肛門周囲の痛みはピークに達します。 「すごく強い力で引っ張られる」、「焼けつくような痛み」と表現する妊婦さんもいます。

また、出産前にお産の痛みがどのくらい強いかを予測することは難しく、一人ひとり痛みの感じ方は異なります。 疼痛質問表(痛みを表現する言葉のなかから、そのときの痛みに最もふさわしい言葉を本人に選んでもらう)を用いて、お産の痛みを調べた研究があります。 これによると、初産婦さんのほうが経産婦さんより痛みを強く感じるという結果がでました。 また初産婦さんにとっても経産婦さんにとってもお産の痛みは、がんによる痛みや関節痛など、とても強い痛みとして知られている痛みよりもさらに強いものでした(※1)。

※1. Melzack. Pain. 19:321-337,1984

陣痛を和らげるには多くの方法がありますが、このウエブサイトでは医療機関で行われる、薬を使って行う方法を説明します。

2つの代表的な方法があります。硬膜外鎮痛と、点滴からの鎮痛薬投与です。
硬膜外鎮痛では、硬膜外腔という背中の脊髄の近い場所に、局所麻酔薬という薬と、多くの場合それに医療用麻薬を加えたものを投与します(Q4「硬膜外鎮痛法とはどんな方法ですか?」をご覧ください)。 点滴からの鎮痛では静脈の中に医療用麻薬を投与し、痛みを和らげます。この2つの方法の比較を下の表にまとめます。


  硬膜外鎮痛 点滴からの鎮痛
鎮痛効果 強い 弱い
処置の簡単さ やや難しい 非常に簡単
お母さんへの影響 意識ははっきりしている
多くの場合、呼吸は影響を受けない
眠くなったり、
呼吸が弱くなる場合がある
生まれたばかりの
赤ちゃんへの影響
ほとんどない 眠くなったり
呼吸が弱くなる場合がある


点滴により静脈の中に薬が入ると、その薬はお母さんの脳に届きます。薬の量はお母さんよりは少ないながら、胎盤を通過して赤ちゃんの脳にも届きます。 お母さんや赤ちゃんが眠くなったりすることがあるのはこのためです。 また医療用麻薬には、点滴による鎮痛の場合のように直接脳に届けば、呼吸を弱くする作用があります。 しかし、眠くなったり呼吸が弱くなったりするのは一時的なことです。お母さんの静脈への薬の投与を中止すれば、お母さんへの影響は長くは続きません。 また生まれたばかりの赤ちゃんが少し眠そうであっても、薬の影響がなくなれば元気になります。

硬膜外鎮痛では、脊髄と呼ばれる痛みを伝える神経の近くに薬を投与するため(Q4「硬膜外鎮痛法とはどんな方法ですか?」をご覧ください)、とても強い鎮痛効果があります。 また薬のお母さんへの影響は少なく、さらに薬が胎盤を通って赤ちゃんへ届くことがほとんどないことから、多くの国で無痛分娩の第一選択の方法とされています。

しかしすべての人が硬膜外鎮痛を受けられるとは限りません。 お母さんの血が止まりにくいとき、背骨に変形があるとき、神経の病気があるとき、硬膜外腔に薬を注入するための管を入れる場所に膿(うみ)が溜まっているときなどは、 硬膜外鎮痛を受けられない場合があります(Q18「硬膜外鎮痛をしてはいけない場合はあるのでしょうか?」を参照してください)。 また背中に針を刺すなんて恐いから受けたくないという妊婦さんもいるかもしれません。そのような場合には点滴から静脈に鎮痛薬を投与する方法を選択します。

子宮や腟、外陰部、会陰部からの痛みを伝える神経は、体の他の部位からの神経と合わさり、背骨の中にある脊髄に向かって集まります(図 1)。 硬膜外腔(図 3)という場所に注入された薬は、硬膜外腔の周囲の神経(図 3C)に作用します。 そして子宮や腟、外陰部、会陰部からの痛みを伝える神経をブロック(遮断)し、お産の痛みを抑えます。
硬膜外鎮痛法は無痛分娩のときのみに用いられる方法ではなく、一般の手術のためや手術後の鎮痛の目的で日常的に使われている方法です。 ただし、使う薬の種類や濃度は手術の場合とは異なります。

硬膜外腔への薬の注入を実際にどのように行うかについては、 Q9「硬膜外鎮痛は、いつ、どのように始めるのですか?」Q10「硬膜外鎮痛の管が入ったあとはどうなるのですか?」をご覧ください。

図4をご覧ください。脊髄は硬膜という膜に囲まれた袋に入っており、その袋の中が脊髄くも膜下腔という場所です。 したがって、ここは硬膜外腔よりも脊髄に近いところにあります。 硬膜外鎮痛の他に、脊髄くも膜下鎮痛も加えて鎮痛を行う方法を、脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛といいます。硬膜外鎮痛法を応用した方法ですので、広い意味での硬膜外鎮痛法に含まれます。

脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛では、硬膜外鎮痛を始めるときにまず脊髄くも膜下腔に少量の鎮痛薬を投与し、その直後に硬膜外腔に細い管を入れます。 硬膜外麻酔のみで行う鎮痛法に比べて効果が早く現れ、数分後にはある程度の鎮痛効果が感じられます。 硬膜外鎮痛と脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛を比較した研究では、鎮痛効果が現れるまでの時間の他には2つの方法にはそれほど大きな差はないという結果が出ています(※1)。

※1. Simmons et al. Cochrane Database Syst Rev. CD003401,2007

妊婦健診のときに、無痛分娩を希望していることを担当医または助産師、看護師に伝えてください。 健診を受けている施設が無痛分娩を行っていない場合には、無痛分娩を行っている施設を紹介してくれるかもしれませんし、 無痛分娩施設リストなどを参考にご自分で探すことも可能です。 そのように分娩施設を変える可能性がある場合には、できれば妊娠32週より前に相談するのがよいでしょう。

かかりつけの施設が無痛分娩を積極的に行っている場合でも、無痛分娩を希望するならば早いうちに、そして少なくとも陣痛が来る前までにその希望を伝えてください。 希望を早く伝えることには、いくつかの利点があります。第一に、無痛分娩の方法やその利点、欠点などについて、妊婦さんと医療スタッフが事前に話し合えることです。
施設により無痛分娩のやり方に大きな違いがありますので、その施設の方法について十分な説明を聞き、よく納得した上で無痛分娩を受けることをお勧めします。

第二の利点は、無痛分娩を行う医師が妊婦さんのこれまでの病気や体の状態を事前に知っておくと、無痛分娩をスムーズにかつ安全に行いやすくなることです。 また、現在の日本では無痛分娩は計画分娩で行う施設が多く、事前に希望していることを伝えていないと無痛分娩を受けられないこともありますので注意してください。

最近の調査によると、日本には約2800の分娩施設がありますが、そのうちお母さんの希望があるときに硬膜外無痛分娩を行う施設は250足らずです※1

日本産科麻酔学会(旧、分娩と麻酔研究会、無痛分娩研究会)は1958年より日本の無痛分娩現況調査を行っており、2004年よりホームページで無痛分娩を行っている施設の一覧を公開してきました。 施設一覧は下のボタンをクリックしてご覧ください。しかし残念ながら、このリストは上記250余りの施設をすべて網羅しているものではなく、リストに含まれていないものの硬膜外無痛分娩を行っている施設も多くあります。 またリストに掲載されている施設でも無痛分娩の方法は様々であり、日本産科麻酔学会が各施設の無痛分娩の内容を保証するものではないことをご了承ください。したがって無痛分娩の内容はそれぞれの施設にお問い合わせいただき、詳しい説明を受けることが大切です。 また、知識と経験の十分な医師のいる施設で無痛分娩を受けることをお勧めします。


無痛分娩施設リスト


※1. 照井克生, 全国の分娩取り扱い施設における麻酔科診療実態調査,
厚生労働省科学研究費補助金子ども家庭総合研究事業, 2008年

「計画分娩(誘発分娩)」とは、分娩の日取りをあらかじめ計画的に決め、陣痛が始まる前にお薬を使ったり処置を行って陣痛を起こすことです。すなわち自然の陣痛を待たずに、子宮の出口への処置や点滴からの薬を用いて分娩を進行させます。日本では、無痛分娩は計画分娩(誘発分娩)で行うという施設も少なくありません。自然に陣痛が来て、お腹が痛くなったときに硬膜外無痛分娩を始められればよいのですが、現在の日本では365日24時間硬膜外無痛分娩に対応できる体制が整っている施設ばかりではなく、限られた曜日や時間帯にしかできない施設もあります。そこで希望している妊婦さんがなるべく硬膜外無痛分娩を受けられるように、計画的に分娩を進める場合があるのです。

計画分娩(誘発分娩)を行うには、赤ちゃんが十分に成熟していることと、経腟分娩が可能なことが前提です。過去に子宮の手術をしたことのある場合や胎盤の位置・赤ちゃんの向きが通常と異なる場合は、計画分娩(誘発分娩)が可能であるか担当医に聞いてみましょう。日取りは、お腹の張りが頻繁になり、子宮の出口が柔らかくなる(熟化といいます)時期を選びます。方法は施設によって少し異なりますが,次の方法を組み合わせて行います。

器具を使って熟化を進める方法

子宮の出口の熟化が進んでいない場合には、子宮の出口に小さい風船のようなものや柔らかい棒状のものを入れて熟化を促します。

薬を使う方法 @

陣痛を強めるにはオキシトシンという子宮収縮薬の点滴をおこないます。この薬はもともと人の体内にあるホルモンの一種です。人によって効果が異なるため、少しの量から始めて、だんだんに増やしていきます。陣痛が強くなりすぎると赤ちゃんの酸素が足りなくなったり子宮が裂けたりすることがあるので、分娩進行中は赤ちゃんの心音(心拍数)と子宮収縮の状態を注意深く観察します。多くの施設でおなかにベルトを巻いて観察します。

薬を使う方法 A

オキシトシンの点滴を始める前に,子宮の出口を柔らかくするお薬を飲むことがあります。この場合も、赤ちゃんの心音の監視が必要です。


計画分娩(誘発分娩)は、無痛分娩のサポートとして行うだけではなく、妊婦さんや赤ちゃんに病気がある場合にも行います。計画的に分娩を行うことで、分娩中を通してずっと、専門的な知識を持つスタッフが待機し,母児の状況の変化にすぐ対応できるメリットがあるためです。

硬膜外鎮痛は、陣痛が始まって妊婦さんが痛み止めをほしいと感じ、産科医の許可が得られた時点で開始します。 子宮の出口が3〜5cm開く頃までに始めることが多いですが、妊婦さんの状態や施設、産科医、麻酔担当医の方針により、開始時期は少しずつ異なります。

硬膜外鎮痛を行う際には、背中の奥に薬を注入するための細い管を入れますが、これはベッドに横向きに寝て、または、座って背中を丸めた姿勢で行います(図 5)。 最初にとても細い針を使って皮膚の痛み止めをします。そして管を入れるためのやや太い針(硬膜外針といいます)を刺します。 このときはもう皮膚の痛み止めが効いているので痛くありませんが、押される感じはあります。 針の先を硬膜外腔に進めたら、その針の中を通して管を硬膜外腔に入れます(図 3)。 その後、針だけを抜くと柔らかい管だけが体に残るというわけです。したがって針は体に残しておくわけでないので、管が入ってしまえば、背中を下にしたり、体を動かしたりしても大丈夫です。 この硬膜外の管を入れるのは数分から10分程度の処置です。

硬膜外の管から薬を注入すると20〜30分で徐々に鎮痛効果が現れます。 効果が現れ始めたときには、陣痛が弱くなった、短くなったと感じる妊婦さんが多いようです。 効果が十分に現れると、お腹が張っているのに痛みがなくなっていることに気づくと思います。 同時に足が軽くしびれた感じがあるかもしれませんが、心配ありません(Q14「硬膜外鎮痛の副作用が心配です」の@を参考にしてください)。

脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛(図 4Q5「脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛とはなんですか?」を参照してください) を行うときには、硬膜外針が硬膜外腔に入った後に、(多くはその硬膜外針の中から)別のごく細い針を脊髄くも膜下腔に刺して脊髄くも膜下腔に薬を注入します。 その細い針だけを抜いて硬膜外針の中を通して硬膜外腔に細い管を入れます。脊髄くも膜下腔に入れた薬の効果は数分のうちに現れます。

硬膜外鎮痛のみでも脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛でも、硬膜外の管が入ったあとは器械(注入ポンプ)を用いて薬を持続的に注入することができます。 器械がない場合には一定間隔で、または痛みが出てきたときに薬を注入します。 注入は分娩の長さに応じて必要な時間だけ続けることができますので、薬の効果が途中で切れる心配はありません。 薬は局所麻酔薬という薬と医療用麻薬を混合したものを使うのが一般的です。

硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に入った局所麻酔薬は、子宮や腟、外陰部、会陰部の痛みの神経をブロック(遮断)すると同時に、足の感覚の神経や、足を動かす神経も鈍くします。 よって硬膜外無痛分娩中は、足がしびれる感じがしたり、足の力が弱くなったりします。 また排尿にかかわる神経も鈍くなります。尿をしたい感じがなくなり、また尿を出すことも難しくなります。 よって、施設によって方針は異なりますが、硬膜外無痛分娩が始まったら歩行せずベッド上で過ごすことにしている施設も多くあります。 トイレには行かず尿はベッド上で管を通して出すことが多いでしょう。詳しいことはそれぞれの施設のスタッフにお尋ねください。

陣痛が始まると胃腸の働きが弱くなります。 よって無痛分娩が始まったあとの飲食を制限するのが一般的ですが、その内容は施設によって異なります。 飲んだり食べたりを一切禁止する施設もありますし、お茶やお水を許可するところもあります。詳しいことは施設のスタッフにお尋ねください。

施設により多少の違いはありますが、分娩が終わると硬膜外腔への薬の注入を止めます。 鎮痛効果は徐々に弱くなり、数時間後にはすっかりきれてしまいます。硬膜外腔に入れた管、は鎮痛効果を必要としなければ抜くことが多いでしょう。 その後の経過や過ごし方は、赤ちゃんとの接し方も含めて、硬膜外無痛分娩をしなかった分娩と違いはありません。

自己調節硬膜外鎮痛は英語でPatient Controlled Epidural Analgesiaと呼ばれ、一般にPCEAと略されます。 硬膜外無痛分娩開始後に痛みを感じたときに、妊婦さん自身が硬膜外腔への痛み止めを追加投与できる鎮痛法です。 硬膜外腔に入っている管にはポンプが接続され、そのポンプを妊婦さん自身がボタン操作をして薬を注入できるようになっています。 妊婦さんがそのボタンを押せば硬膜外腔に追加の薬が注入されるというわけです。 しかし、投与できる薬の量は自動的に制限されるしくみになっていますので、ボタンを押しすぎても使いすぎる心配はありません。

PCEAでは一定量の鎮痛薬を持続的に投与する方法と比べて、同じような鎮痛効果を得ながらも、痛みが増強したときに医療スタッフが鎮痛薬を追加投与する回数は少なく、 鎮痛薬の総使用量が少なく、足の力が保たれやすいともいわれています(※1)。 またお母さんや赤ちゃんへの副作用が増えることもありません(※1)。 お母さんの満足度が高くなるという報告もあります(※2)。 しかし一方で、医療スタッフが鎮痛薬のコントロールをした方がよい場合や、お母さん自身がそれを望む場合もありますので、心配な場合には医療スタッフと相談して決めるのがよいでしょう。

※1. van der Vyver et al. Brit J Anaesh. 89:450-465,2002.
※2. Saito et al. J Anesth. 19:208-212,2005.

何といっても第一のメリットはお産の痛みが軽くなることです。 硬膜外無痛分娩は鎮痛効果が強く、ひどい痛みをまったく感じずに分娩に至るお母さんがたくさんいます。 疲労が少なかった、産後の回復が早かったという感想もよく聞かれます。

また一般にお産の痛みに耐えているときは、お母さんから赤ちゃんに届く酸素が減るといわれています。 これは強い痛みがあると、お母さんの体の中でカテコラミンという血管を細くする物質が増えるために赤ちゃんへの血流が少なくなることや、陣痛の合間には、お母さんが呼吸を休みがちになることが原因と考えられています。 したがって痛みが軽くなれば赤ちゃんに酸素がたくさん供給されると考えられます。 そうはいっても正常な妊娠や分娩経過では、痛みによって赤ちゃんへの酸素供給が多少減ることはそれほど問題にはなりません。 しかし妊娠高血圧症候群(かつて妊娠中毒症といわれた病気)のように赤ちゃんへの血流が減っている状態の妊婦さんでは、痛みによって悪い影響があるかもしれません。 妊娠高血圧症候群の妊婦さんに硬膜外鎮痛を行ったところ、赤ちゃんへの血流が増えたという報告もあります(※1)。

また硬膜外無痛分娩を受けたお母さんは、陣痛中に消費される酸素の量が少ないこともわかっています(※2)。 したがって心臓や肺の具合の悪い妊婦さんでは、負担を軽くするために医学的な理由で硬膜外無痛分娩を勧める場合もあります。

※1. Jouppila et al. Obstet Gynecol. 58:158-161,1982
※2. Hagerdal et al. Anesthesiology. 425-427,1983

麻酔を担当する医師は、不具合が生じないように細心の注意をはらって麻酔を行います。 しかし痛み止めの効果が得られるとともによく起こる副作用(@〜D)や、まれに起こる不具合(E〜I)があります。 また硬膜外鎮痛を受けていなくてもお産のあとに起こりうる不具合(J〜K)もあります。


○ よく起こる副作用

@ 足の感覚が鈍くなる、足の力が入りにくくなる:

お産の痛みを伝える経路である背中の神経の近くには、足の運動や感覚をつかさどる神経が含まれています。 したがって、麻酔薬によってお産の痛みを伝える背中の神経を鈍らせると、痛みが取れるとともに足の感覚が鈍くなったり、足の力が入りにくくなることがあります。 その程度は無痛分娩のやり方やお母さん個人個人によって様々です。

A 低血圧:

背中の神経には、血管の緊張の度合いを調節しながら血圧を調節する神経も含まれています。 よって背中の神経が麻酔されることによって、血管の緊張がとれ血圧が下がることがあります。 その程度は一般的には問題とならない程度です。まれに通常より程度が大きい場合があり、お母さんの気分が悪くなり、赤ちゃんも少し苦しくなってしまうことがあります。 したがって、硬膜外鎮痛を行うときには、血圧は注意深く監視され、下がった場合には速やかに治療されます。

B 尿をしたい感じが弱い、尿が出しにくい:

背中の神経には、尿をしたい感覚を伝えたり、尿を出すための神経も含まれており、鎮痛の効果が現れるとともに、膀胱に尿がたまってもそれを感じなくなったり、尿を出そうと思っても上手く出せなくなったりすることがあります。 その際は、細い管を入れて尿を出します。管を入れる処置は麻酔が効いているために痛くありません。

C かゆみ:

硬膜外鎮痛(または脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛)に医療用麻薬を組み合わせて使うと、その影響でかゆみが生じることがあります。 がまんできないときには薬を使って治療しますが、ほとんどの場合、治療を必要としない程度のかゆみです。

D 体温が上がる:

硬膜外鎮痛を受けている妊婦さんの一部では、硬膜外鎮痛を受けていない妊婦さんよりも体温が高くなると報告されており、 特に初めてのお産のときにその傾向が強いといわれています(※1, ※2, ※3)。 熱がでるのは風邪をひいたときなどのようにばい菌の影響と思われがちですが、硬膜外無痛分娩中の発熱は、ばい菌が原因ではないと考えられています(※4)。 原因としては、子宮収縮にともなって代謝が亢進することや汗をかきにくくなること、痛みが取れているため呼吸が速くならず熱が体の外に放出されないことや、 硬膜外無痛分娩を受けている妊婦さんでは何らかの炎症が起こっていることが考えられています(※2, ※3)。 硬膜外無痛分娩中にお母さんの体温が上昇した場合に、生まれた赤ちゃんに影響があるかどうかについては、さまざまな報告がありますが、明らかになっておらず、現在も研究が進められています。 また、ばい菌が発熱の原因になっていないかを調べるためにお母さんと出産後の赤ちゃんに採血検査をすることがあります。


○ まれに起こる不具合

E 硬膜穿刺後頭痛:

まれ(約100人に1人程度)(※5)ではありますが、硬膜外腔に細い管を入れるときに硬膜を傷つけ(硬膜穿刺)、頭痛が起こる場合があります。 この頭痛は、硬膜(図3, 図4)に穴が開き、 その穴から脳脊髄液という脊髄の周囲を満たしている液体が硬膜外腔に漏れることにより生じるとも言われており、頭や首が痛んだり吐き気がでたりします。 産後2日までに生じ、症状は特に上体を起こすと強くなり横になると軽快します。まず安静にすることや痛み止めの薬をのむことで治療をします。 それによって頭痛や吐き気が軽くならない場合や、物が二重に見えるなどの特別な症状が見られた場合には、患者さん自身の血液を硬膜外腔に注入し、 血をかさぶたのように固まらせることにより穴をふさぐ「硬膜外血液パッチ」という処置を行うことがあります。

F 血液中の麻酔薬の濃度がとても高くなってしまうこと(局所麻酔薬中毒):

硬膜外腔にはたくさんの血管があり、妊娠中にはそれらの血管が膨らんでいます。 そのため、硬膜外腔へ入れる管が血管の中に入ってしまうことがあります。 硬膜外腔に入れるはずの麻酔薬が血管の中に注入された場合や、血管内に注入されなくてもお母さんに投与される局所麻酔薬の量が多すぎる場合は、耳鳴りが出たり、舌がしびれたり、血液中の麻酔薬の濃度が高すぎることを示す症状が表われます。更に血液中の麻酔薬の濃度が高くなると、けいれん(ひきつけ)を起こしたり、心臓が止まるような不整脈が出ることがあります。麻酔を担当する医師は、この合併症がおきないよう十分に注意していますが、発生した場合には、治療薬の投与や人工呼吸といった適切な処置を行います。

G お尻や太ももの電気が走るような感覚:

硬膜外腔に細い管を入れるときに、お尻や太ももに電気が走るような嫌な感じがすることがあります。 これは、管が脊髄の近くの神経に触れるために起こります 。一般的にはこの感覚はほんの一時的なもので、特別な処置を必要とせず軽快します。 場合によっては管の位置の調整が必要なこともあります。

H 脊髄くも膜下腔に麻酔の薬が入ってしまうこと(高位脊髄くも膜下麻酔・全脊髄くも膜下麻酔):

硬膜外腔へ管を入れるときや分娩の経過中に、硬膜外腔の管が脊髄くも膜下腔(図3, 図4)に入ってしまうことが、まれにあります。 硬膜外腔に入れるはずの麻酔薬を脊髄くも膜下腔に投与すると、麻酔の効果が強く急速に現れたり、血圧が急激に下がったりします。重症では呼吸ができなくなったり、意識を失ったりすることもあります。麻酔を担当する医師は、この合併症がおきないよう十分に注意していますが、発生した場合には、人工呼吸をはじめとする適切な処置を行います。

I 硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に血のかたまり、膿(うみ)のたまりができること:

数万人に一人と非常に稀ですが、麻酔の薬が投与されるべき硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に、血液のかたまりや膿がたまって神経を圧迫することがあります。 永久的な神経の障害が残ることがあるため、できる限り早期に手術をして血液のかたまりや膿を取り除かなければならない場合があります。 正常な人にも起こることがありますが、血液が固まりにくい体質の方や、注射をする部位や全身にばい菌がある方は、血のかたまりや膿ができやすいので、 硬膜外鎮痛を行うことができません(Q18「硬膜外鎮痛をしてはいけない場合はあるのでしょうか?」を参照してください)。



○ 硬膜外鎮痛を受けなくても、お産のあとに起こる可能性があること

J 産後の神経の障害:

6057人のお産について、産後の神経の障害を調べた研究があります(※6)。 この研究では、硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛をしたこととお母さんの神経の障害とのあいだに関連を認めませんでした。 お産のあとの神経の障害は、赤ちゃんの頭とお母さんの骨盤の間で神経が圧迫されることや、お産のときの体位が原因で起こることが圧倒的に多いといわれています。

K 腰痛:

妊娠中から産後に腰が痛くなることがよくあります。 しかしこれらの多くは、妊娠にともなって背中の靭帯が軟らかくなり、妊娠して大きくなった子宮の重みがかかることで、背骨にかかる負担が大きくなるために起こります。 腰痛は、硬膜外鎮痛を受けた人も受けなかった人も同じくらいよく起こると報告されています(※7)。

※1. Eltzschig et al. N Eng J Med. Jan 23;384:319-332, 2003
※2. Sharma et al. Anesth Analg. 118:604-610, 2014
※3. Segal. Anesth Analg. 111:1467-1475, 2010
※4. Goetzl. Curr Opin Anesthesiol. 25:292-299, 2012
※5. Choi et al. Can J Anesth. 50:460-469, 2003
※6. Wong et al. Obstet Gynecol. 101:279-288, 2003
※7. Amin-Somuah et al. Cochrane Database Syst Review. CD000331, 2005

硬膜外鎮痛がお産にあたえる影響については、分娩施設や担当産科医の分娩管理方針によって異なります。 ここでは、これまでの研究で明らかになっていることを記しますので、みなさんがお産をする施設や担当する産科医とよく話し合うことをおすすめします。

分娩時間への影響:

いくつもの研究を併せて分析した報告によると、硬膜外鎮痛を受けた妊婦さんでは、点滴から鎮痛薬を投与された妊婦さんと比べて、分娩第T期(お産が始まってから子宮の出口が完全に開くまで)は長くならないことが示されました。 分娩第U期(子宮の出口が完全に開いてから赤ちゃんが産まれるまで)は平均14分長くなりました(※1)。 アメリカ産科婦人科学会は、硬膜外鎮痛を受けている妊婦さんでは、受けていない妊婦さんよりも、分娩第U期が1時間長くなることは許容されるとしています。 赤ちゃんが元気で産道を降りてきており、お母さんの痛みが十分取れているのであれば、分娩第U期がある程度延長することは問題ないと考えられています。

鉗子(かんし)分娩、吸引分娩への影響:

鉗子や吸引は、分娩第U期が著しく長い場合、お母さんの血圧が高い場合、赤ちゃんが産道を降りてくるときの進み方に問題がある場合などに、赤ちゃんの頭が出ることを助ける目的で使用されます。 硬膜外鎮痛を受けた妊婦さんでは、点滴から鎮痛薬を投与された妊婦さんよりも、鉗子や吸引を使うことが多くなることがわかっています(※1, ※2)。 しかし、どのくらい多くなるかは明らかではありません。 鉗子や吸引を使用するかの判断の基準は分娩施設や担当産科医によっても大きく異なるため、硬膜外鎮痛が鉗子、吸引分娩を行う率へ影響を調べるのは難しいといわれています。 また、硬膜外鎮痛により鉗子や吸引分娩になりやすくなる原因もわかっていません。一つの説としてお母さんのいきむ力が少し弱くなるためという説があります(※3)。

帝王切開率への影響:

これまでに行われた研究をいくつも合わせて分析をしたところ、硬膜外鎮痛を受けても、点滴から鎮痛薬を投与された場合と比べて、 帝王切開となる率が高くならないという結果が出ており(※1, ※2)、概ね意見がまとまっています。 しかし帝王切開となる率を高めたという報告もあり、完全な意見の一致には至っていません(※3)。 硬膜外鎮痛により帝王切開になりやすくなるかどうかは、担当するスタッフの分娩方針により異なるのかもしれません(※3)。

オキシトシン使用への影響:

オキシトシンは、人間の体の中で作られるホルモンで子宮を収縮させる作用を持っています。子宮を十分に収縮させ、お産をスムーズに進行させるために人為的にオキシトシンが使われることもあります。 硬膜外鎮痛を受けた妊婦さんでは、点滴から鎮痛薬を投与された妊婦さんよりも、オキシトシンを使用する頻度がわずかに高くなりました(※1)。

※1. Amin-Somuah, et al. Cochrane Database Systematic Reviews. CD000331,2011
※2. Halpern S.H., et al. Current Opinion in Anaesthesiology. 23:317-20,2010
※3. Eltzschig et al. New England Journal of Medicine. Jan 23;384:319-332,2003

生まれた直後に現れる影響について:

1980年代の硬膜外無痛分娩では、現在一般的に使用されているよりも高い濃度の局所麻酔薬を使用していました。 このような方法の硬膜外鎮痛を受けたお母さんから産まれた赤ちゃんは、お産中に薬を投与されなかったお母さんの赤ちゃんよりも、 生後数日間、運動機能や刺激に対する方位反応が劣るとある研究で報告されました(※1)。

しかし、現在主流となっている硬膜外鎮痛は、低濃度の局所麻酔薬に少量の医療用麻薬を加えて持続的に投与する方法です。 この硬膜外鎮痛の方法を用いて、お母さんの血液と、お母さんから赤ちゃんに届く血液で麻酔薬の濃度を測定し、さらに生まれた赤ちゃんの状態を調べた研究があります(※2)。 お母さんに投与した麻酔薬は一部赤ちゃんに移行しましたが、アプガーという人が赤ちゃんの状態を評価するために提唱した値(心拍数、呼吸状態、筋緊張、皮膚の色、反射を点数化)や、 赤ちゃんの意識状態、いろいろな刺激に対する反応を調べてみても、いずれも正常でした。 また赤ちゃんの体をめぐったあとお母さんに戻る血液を検査しても、赤ちゃんの状態を調べても正常で、悪影響を認めませんでした。

ただし、お母さんの硬膜外鎮痛に用いる医療用麻薬の量が通常より多いときには、生後24時間の赤ちゃんの音や光に対する反応や運動機能が、少ない量の医療用麻薬を投与された場合に比べて低くなったという研究結果もあります。 しかしこの差は問題にならない程小さいと考えられています(※3)。

また、硬膜外に投与される医療用麻薬がとても多いと、産まれてきた赤ちゃんの呼吸が一時的に弱くなる危険性がありますが(※4)、そのような悪い影響のないよう、担当医は細心の注意を払っています。

点滴からの鎮痛薬の投与と硬膜外鎮痛を比較した研究(※5)では、お産中の赤ちゃんの状態に差はありませんでした。 しかし生まれたばかりのときは、硬膜外鎮痛を受けていたお母さんから産まれた赤ちゃんのほうが元気がよかったという結果がでています。

生まれた後に時間がたって現れる影響について:

お母さんが受けた硬膜外鎮痛が、生まれた赤ちゃんが成長していく過程に影響するかどうかを調べた研究が一つあります(※6)。この研究では、19歳までの学習障害(IQと読む、書く、算数のテスト結果から評価)の有無を指標としています。 硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛を受けたお母さんから生まれた子どもで、受けなかったお母さんから生まれた子どもと比べて、学習障害が多くなることはありませんでした。

※1. Sepkoski et al. Dev Med Child Neurol. 34:1072-1080,1992
※2. Bader et al. Anesth Analg. 81:829-832,1995
※3. Beilin et al. Anesthesiology. 103:1211-1217,2005
※4. Kumar et al. J Perinatol. 23:425-427,2003
※5. Halpern et al. JAMA. 280:2105-2110,1998
※6.Flick et.al. Anesth Analg. 112:1424-1431,2011

お母さんの硬膜外腔に投与する局所麻酔薬が高い濃度で用いられていたり、硬膜外鎮痛だけでなく筋肉注射や点滴からの痛み止めの薬が同時に用いられていると、 出産した後の授乳がうまくいかず人工ミルクを加えることが多くなると報告されています(※1, ※2)。 しかし、これは現在主流となっている、低濃度の局所麻酔薬に少量の医療用麻薬を加えて硬膜外投与する無痛分娩法とは違います。 したがってこれらの研究は硬膜外鎮痛が授乳に与える影響を正しく評価していないといえます。

母乳育児がうまくいくかどうかには、さまざまな理由がかかわっており、お母さんへの母乳育児の専門家によるサポートはその一つです。 母乳育児に積極的なカナダの病院から出された研究結果によると(※3)、現在広く用いられている、低濃度の局所麻酔薬に少量の医療用麻薬を加えて硬膜外投与する方法は、出産から6週間後の授乳の成功率に影響しませんでした。

硬膜外鎮痛のために、お母さんに投与した麻酔薬がどのくらい母乳に移行するかを調べた研究は多くはありませんが、 お母さんの静脈から投与した少量の医療用麻薬がどのくらい母乳に移行するかを調べた研究はあります(※4)。 この研究では母乳中に医療用麻薬は検出されましたが、その量は極めて少ないものでした。また、赤ちゃんが生後すぐに飲む母乳の量は少なく、赤ちゃんの腸から体内に吸収されるのは母乳中の医療用麻薬の一部です。 硬膜外腔に投与される麻酔薬は、静脈から投与される場合に比べて母乳中に移行しにくいことを考え合わせると、硬膜外無痛分娩で使われた薬が母乳を介して赤ちゃんに悪い影響を与えることは、ほとんどないと考えられます。

母乳育児をうまくいかせるためには、出産後できるだけ早く母乳を赤ちゃんに直接与えることが推奨されています(※5)。 生後24-48時間以内にお母さんから直接母乳を吸っていただけの赤ちゃんで、生後6ヶ月の母乳育児の割合が多かったことが報告されており、 この研究では、硬膜外鎮痛は母乳育児に影響を与えていませんでした(※6)。

※1. Volmanen et al. Int J Obstet Anesth. 13:25-29,2004
※2. Torvaldsen et al. Int Breastfeed J. 1:24,2006
※3. Halpern et al. Birth. 26:83-88,1999
※4. Steer et al. Can J Anaesth. 39:231-235,1992
※5. http://www.who.int/topics/breastfeeding/en/
※6.Forster et al. BMJ Open. 5:e007512,2015

お母さんの状態によっては、硬膜外鎮痛を希望してもできない場合があります


血液が固まりにくい場合:

硬膜外麻酔にともなって生じることのある、硬膜外血腫(Q14「硬膜外鎮痛の副作用が心配です」のIをご覧ください)は、 血液が固まりにくい状態にあると起こりやすくなります。 これまでに血液が固まりにくい体質だと言われたことがある方は担当医にお伝えください。 また、妊娠やお産の経過中に血液の固まりやすさは変化することがあり、もともと血の固まりにくい体質でなくても、硬膜外鎮痛をすることができなくなることがあります。 通常、硬膜外鎮痛を行う際には、あらかじめ血液の固まりやすさの検査を行います。

大量に出血していたり、著しい脱水がある場合:
硬膜外鎮痛を行うと血圧が急激に低下する危険性が高いため、行うことができません。

背骨に変形がある場合、背中の神経に病気がある場合:

背骨に変形がある場合は、変形の程度や、変形の位置によっては、硬膜外腔に管を入れることがとても難しいことがあります。 また背中の神経が病気に冒されていると、神経の近くに麻酔薬を投与する硬膜外鎮痛は行えないことがあります。

注射する部位に膿(うみ)がたまっていたり、全身がばい菌に侵されている場合、高い熱がある場合:

正常な状態では、硬膜外腔や脊髄くも膜下腔(図3. 図4)は、ばい菌のいない場所です。 しかし、背中の注射する場所や全身にばい菌がいる場合は、硬膜外腔に刺す針や管を介して、硬膜外腔や脊髄くも膜下腔にばい菌を持ち込んでしまう危険性があります。

局所麻酔薬アレルギー:

局所麻酔薬に対するアレルギー反応はまれですが、起こると深刻な状態に陥ることがあります。もしも以前に局所麻酔薬に対してアレルギー反応があった場合には、必ず担当医にお伝えください。



上に挙げた状態以外にも、硬膜外鎮痛を行えない場合や慎重に行わなくてはならない場合があります。一度麻酔担当医にご相談ください。

2007年度に行われた調査の結果、日本全国の硬膜外無痛分娩率は全分娩の2.6%でした。 日本では規模の小さい医療施設のほうが無痛分娩率が高く、診療所では3.3%、病院では1.8%となっています(※1)。

アメリカやフランスは硬膜外無痛分娩を受ける妊婦さんが多い国として知られています。 アメリカで2008年に硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛を受けた女性は、経腟分娩をした女性の約61%でした(※2)。 フランスにおける2010年の調査では、経腟分娩の約80%もの女性が硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛による無痛分娩をしています(※3)。 それに対して、イギリスでは全分娩中の23%(2006年)(※4)、 ドイツでは全分娩中18%(2002-3年)(※5)、ノルウェーでは全分娩中26%(2005年)(※6)であり、欧米のなかでも国により状況が大きく異なることがうかがえます。

アジアは硬膜外無痛分娩率の低い地域ですが、その中で比較的率の高い国はシンガポール、香港、台湾で、それぞれ全分娩の16%、9%、9%でした(1997-9年)(※7)。

※1. 照井克生.全国の分娩取り扱い施設における麻酔科診療実態調査.
厚生労働省科学研究費補助金子ども家庭総合研究事業.2008
※2. Osterman et al. Epidural and spinal anesthesia use during labor: 27-state reporting area, 2008.
Center for Diseases Control and Prevention. National vital statistics and report. 59,2011
※3. フランス国立保健医学研究機構HP
※4. The National Obstetric Anaesthesia Database (NOAD) Report. Data for 2006.
※5. Meuser et al. Schmerz. 22:184-190,2008
※6. Tveit et al. Acta Anaesthesiol Scand. 53:794-799,2009
※7. Chan et al. Int J Obstet Anesth. 9:225-232,2000

無痛分娩の費用は健康保険を使って支払うことができないため、妊婦さんご自身が負担しなければなりません。

施設によって無痛分娩費用は大きく異なります。2004年に分娩と麻酔研究会(現、日本産科麻酔学会)は、会員の所属する分娩施設を対象に無痛分娩についての調査を行いました。 硬膜外無痛分娩を行っている46施設からの回答によると、硬膜外無痛分娩の費用(通常の分娩費に加えて必要となる費用)は、 個人施設では0〜5万円、一般総合病院では3〜10万円、大学病院では1〜16万円でした(※1)。 費用についての詳しいことはご自身の施設のスタッフに直接お問い合わせください。

※1. 望月純子ら.分娩と麻酔.87:47-51,2005